NARRATIVE

闘病日記と化した雑記です。

ねむれないよるに

 

 

あ、ねむれないよるだ。

 

なんて久しぶりなんだろう。20代の前半まで、それもごく最近まで、朝方まで寝付けないのは当たり前だったのに。すごく戸惑っている自分がいる。

 

先週も自殺企図を起こしかけた。考えてみれば馬鹿らしいことだ。自殺したところで何も変わらない。本当になにも変わらない。どうでもいい。

 

まったく自分の人生に集中できていない。キャリアに自信がなくて、将来が不安で。精神科に通い、混乱でぐちゃぐちゃになっている不安でできた生き物と、言葉を整理する冷静な自分との狭間でバスに揺られながら、それでも日々の幸せと僅かな身銭を大切に握りしめていると、自動ドアの開く音がする。

 

私はたくさんのものを手に入れられない。自分がほんとうに大切だと思った、たった一つだけをずっとポケットに入れている。それは愛する対象への思い。愛することでしか愛されることは出来ない。

 

時間で区切られたお給料を計算しながら、ただ早く時間が過ぎることを願っている時、わたしは本当に醜い生き物に成り下がってしまったのだなあと考える。時間が足りないと思いながら没頭していた日々のことを思い返してみても、血の池を経由しなければならないから見に行けない。

 

どんなに頑張っても、本当に欲しいものは手に入らない。そんなものは存在しない。本当に欲しいものなんてない。自分の生命と一緒にいきて、隣で眠っている人がいて、私もそのうち眠りについて、朝がくる。本当に欲しいものは、もしかしたら今、そうやって毎日続いている「おはよう。」の繰り返しなのかもしれない。だとしたら、存在しないんじゃなくて認識できないんだろう。当たり前すぎるから。

 

パンが焼ける音、温かい紅茶、バナナとヨーグルト、柔らかい日差し、キスを四箇所、そうして交わされる言葉。愛してるよ。行ってらっしゃい。気をつけてね。

 

どうやったら伝えられるか分からない。世界で一番愛してやまないあなたに、毎朝出会えることがどれだけ幸せなことなのか。毎晩眠る前に、どんどん隣で温かくなる身体を感じながら1人で頭を働かせている幸福だとか。喧嘩をしても、相互理解を深めていって、少しづつ人格が変わっていくことで安心を増やしていく喜びのこと。

 

昔は止まらない仄暗い考えが、夜になるたびに枕元に立っていて、氷のような吐息でブツブツと憎悪を垂れ流し、スモークのように部屋を悲しみで満たして、四肢の末端を凍えさせていたのだ。幼い私はいつも冷たい身体を擦りながら、小さなベッドで怯えることしかできなかったのだから。また明日が来る。また化け物になったあの人が来る。また一日が台無しになってしまう。

 

やっと力をつけて、言葉を生み出せるようになって、自分の劇団を動かして、大したことのないおじさん達に扱き使われていても、わたしは幸せだった。物をつくっている喜びがあれば、たくさん友だちが増えて、いろいろな人の家を渡り歩いて、寝ても醒めてもお酒を飲んで。けれど、それも変わってしまった。暗い、本当に暗い1年だった。やっと笑える日が増えたけれど、今でも傷口からは血が流れ続けている。こころのガーゼを張り替える日々だ。

 

演劇を愛している。

けれど、トラウマが邪魔をして、他者の認知を歪ませる。敵と味方の区別がつかなくなる。手負いの獣のように、見境なく噛みついたかと思えば、苦しみから舌を切ろうと暴れ回る。演劇に触れるためには、わたしのなかに生まれた獣を飼い慣らさなければならない。それにはやはり時間がかかるのだと思う。

トラウマってのは、あれだよ、ナルトと九尾の関係性みたいなもんだよ。ほんとにそう思う。

 

自分の身体が汚れていて、キズもので、醜い生き物だと考えている頭の隅にいるアイツは、私じゃないんだと思う。私は美しく生まれているし、とても愛されて生きてきた。あのケダモノがあの瞬間どれだけ私を陵辱した事実があったとしても、私は自分を愛するし、周りの人を愛していくし、これからも愛されて生きていくよ。

 

あの日主治医が語った言葉を忘れない。

 

「あなたは本当に頑張っていて、戦っています。それでいいんです。僕も全力を尽くしますが、もしかしたらそれでも敵う相手じゃないかもしれない。それくらいの問題を、ずーっと1人で知識を付けて行動して、よくやってきたんだと思うんですよ。だからもう隠さなくて大丈夫です。その傷口を見せてください。一緒に治していきましょうよ。いっぱい泣いてくださいよ。」

 

わたしは感謝でいっぱいだ。

こんな言葉が貰えるんだから。

わたしを愛する人がいるんだから。

 

今だ。いや、明日だ。

明日もおはようから始めよう。

ボロボロだけど、傷だらけだけど。

わたしなりに幸せになろう。なれるよ。

あなたもなれるんだよ。

 

なるんだよ。