不思議な夢を見た。
わたしは寂れたアパートの一室に住んでいた。恐らく20代前半に過ごした、ガタガタと、忙しなく鉄道の音がする部屋だった。
隣の部屋から男がやってきて、無作法に犯された。わたしは『ああ』と思った。今度は失敗したくない。流れ作業のように、やるべきことを考えた。
男は何やら自分を慰める言葉を幾つか吐きながら、お礼をして帰っていった。腹に乗った冷たい精液を拭き取り、それを持って警察に行った。
一畳ほどの取調室。サエキと名乗った婦人警官は、「これでは証拠にならないね。」と、笑った。
「あなたにも落ち度はあったよね。」
「そうですね。わたしが悪いです。」
穏やかに話し合い、警察署を出た。
わたしの生業は、神様の住むマンションを清掃することだった。誰の目にもとまらない、ちんけな仕事だ。煌びやかな部屋、配置の決まった札の場所、かけるべきレコード。神様の機嫌を損ねないことが、わたしの唯一の役割だった。
ジクジクと痛む子宮が悲鳴をあげていた。
わたしは黙って血を流した。
間に合わせで下着に詰めたトイレットペーパーが、理不尽な重みをもっている。
けれど、一言も発さずにいた。
一際薄汚れた、打ち捨てられたような角の部屋を整えている最中だった。
「悔しい?」と、声をかけられた。
振り返ると井戸があった。
暗闇の底から、なにかが話しかけていた。
"神様とは口をきいてはいけないよ"
誰かから放たれた言葉が、一瞬よぎった。
「私が食べてあげるから。」
その存在は、たくさんの黒いまなざしを向けていた。
寂しそうだ、と思った。
「お願い。」
祈り。自分から、青く涙のようなものを感じた。
影のなかで、それはニッコリ笑った。(ように見えた。)
握りしめすぎて、クシャクシャになった小さなティッシュを、黒い指先が大事そうに救いあげて、言った。
「いつかあなたが私に施した、×××のお礼をするからね。どんなことが起こっても、それは私が食べてしまうから。あなたは、」
そうして、また部屋は静けさを取り戻した。
一人、心臓がバクバク動いた。とんでもないことをしてしまったと思った。
「起きて。」
目を覚ますと、耳までグッショリと濡れていた。
わたしはまた孤独に横たわっていた。
あれはきっと、呪いの一種だった。
彼の者が最後にくれた詩的な響きが、いつまでも、いつまでも耳に残っていた。
そうして、わたしが感じていた正体不明の罪悪感は、どこにもなくなっていたのだった。