NARRATIVE

闘病日記と化した雑記です。

私について⑤追い詰められる

 

もう逃げ場がないな。

そんな諦観まで行き着くのが当たり前になってから、どれ程の時間が経ったのだろう。なんという悪癖だ。傷ついていないと生きている実感が湧かないなんて悲しい。それを笑う余裕すら今は感じられない。

また眠れない日々が続いている。

 

「貴女は幽霊みたいだ」

 

男は真っ直ぐ私の目を見ながら言った。

不敵な笑みを浮かべ、さも的を得た言葉を放ってやったぞ、といったような表情だったように思う。

私は自分がゆっくり明確に傷つくのを感じながら、悟られないよう慎重に心の扉を閉じ、にこやかに返答した。

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

数秒の沈黙の後、彼は不明瞭な言葉を口にした。何が理解され、それが如何に退屈であったのか、今も分からない。とにかく私は、その台詞に酷く動揺したのだ。

デジャヴで脳が揺れた。私は私の輪郭を失う。

過去がレイヤーを重ねるようだ。今の色はどこに消えたのか。どこに行けばいい。またやり直しなのか?

 

 

眠れない。

 

こんな記憶を持っていても仕方ないじゃないか。

 

どうしてよく知りもしない人の何気ない一言を大事にしまいこんで、大切に思ってくれる人の言葉をゴミ箱に擲つのか。

 

答えは簡単だ。

その方が自分をよく刺すナイフだと認識しているからだ。私にとってはそちらの方が有難い。甘やかさないように自分から適度に傷を作っていないと、心が眠ってしまう。万が一油断して他人から本当に刺された時に、耐え難い苦痛が襲うのを私はよく知っている。

 

人の身体は温まるよりも冷える方が容易い。

それはきっと心も同じなのだと思う。

 

だからこそ、温かい寝具が必要なのだ。

眠りは唯一の自己治癒であるのに。

心が休まらないと身体も休まらない。

 

苦しい。もう許してほしい。

私が私を許してくれない。

いつもそうだ。嵐の中で瞑想している。

 

今日もまた誤解の中で生きている。

人は誰かの誤解の中で生きている。

 

いつ自分が自分を食い殺すか。

そんなもの分かりやしないのに。

私の中には鬼がいるのだ。

 

愚かだから明日も生きたいと願ってしまう。なんたる傲慢か。全部私が悪い。出来の悪い一人芝居を見させられているようだ。もっと上手く演じればいいものを。

 

交互に訪れる自己肯定と自己否定の波。

それに船酔いする精神。眠れない。

 

優しい誤解の中で生きていたい。

いつか安息の地へ行きたい。

 

穏やかな場所は私が必ず用意する。

お願いだからその時まで耐えてほしい。

精神よ、末永く太くあれ。

 

 

 

 

 

追い詰められている。

 

 

 

 

 

 

2019/04/11 御法川わちこ