私について⑧失意の底から流れ出ては溶けるもの
これはなんだ。
この状況はなんなのだ。
冷えては温まるような感傷だ。
手を尽くせば延命できたのか。
それとも元々絶命していたのか。
歯車は噛み合わないまま、秒針は動かない。
もう時計は音を立てない。
時は止まってしまった。二度と蘇らない。
抱えて生きていくのだ。
これすら氷山の一角だとする。
しかし、その全貌を読めぬまま。
忘れたくない。
精神は無意識に押し遣ろうと必死だ。
それをやって何度失敗しただろう。
私は気づけば、同じ轍ばかり辿っている。
ぐるぐる。
空転しているではないか。
久しぶりの絶望はニヤニヤしていた。
「思う存分足掻けたかい?」
__いや、私は全くもって嘘つきだった。
もっと上手く振る舞えたらね。
狂気の前の希望に目が眩んでしまった。
やはり自分を騙せない人間は向いてない。
「そうか。」
そう言って我々はまた肩を組む。
足取りは不思議と軽かった。
悪女になるなら月夜はおよしよ。
そう歌った女は偉大だ。
道に倒れることも無く私は歩いている。
彷徨う。
心の地図を広げる。
大きい足跡と小さい足跡で滅茶苦茶だ。
これはこれで芸術と呼べるかしら。
そんなことをふと思う。悲しい。
例えば、恋が崖の上の花のようだとする。
どんなものも眺めていれば美しく見えるのだ。
しかし、人は欲張りである。
どうしても手に入れたくなる。
実際に崖に登り、やっとこさ掴んだ花は、帰ってくる頃には萎れて汗でくしゃくしゃになって本来の美しさを失っている。
それを見ても尚美しいと思える、これは恋だ。
それは明確に偏見で出来ている。
しゃぼん玉のようにも見える。
表面を混ざっては流れる彩りの中に、様々な感情が映し出されている。悲しみと喜びと楽しさと、希望と絶望だ。色濃くも儚いものだった。
きっと、少し触れば割れてしまうのだろう。
私の心を漂っている。
もう少しだけ浮かんでいるかい。
好きなだけいるといい。
傷つかないのは思い出だけなのを知っている。
どんなに辛い時でも、自分は居なくならない。
ふと振り返ると森の中に希望がある。
またあそこに入るのか。勘弁してくれ。
私は逡巡する。そして歩き始める。
研究領域は増えるばかりだ。
私は私という人間を調査しなくては。
これ以上被害を拡大させてはならない。
目を開いた。
世界と繋がる。
生きている。
昨日、久々に旧友と会った。
一目見るなりゲラゲラ笑い出した彼女は言う。
「またそんなに血だらけになって」
心が血だらけじゃないか。
もう一度そう言った。
肩を叩く彼女の優しさに泣いた。
救われてしまった。
しかし、私は救えなかった。
分かっていたのに。
優しくしなければいけないのは私だった。
必要なものを持っていた。
それは私の役割だったのだろうか。
もうやめよう。考えても仕方ない。
シンプルな問題のはずだ。
複雑化するのは悪い癖だ。
これ以上砂をかけないでいよう。
せっかく育てたのだから。
崖に再び芽吹くのはなんだ。
なんだ。
これはなんだ。
この状況はなんなのだ。
なんなのだろう。
いや、疑う余地はきっとない。
幸せだった。
幸せになりたかった。
幸せにできなかった。
幸せは永続しない。
だから、誠実に向き合うのだ。
幸せに限界はない?
結局分からないままだ。
探しに行かなくては。
そうだ。
視界はクリアに訴えかける。
少し鮮明なグラフィックスで私の目に映る。
この世界は美しいのだと。
そうだ。
自分で育てたものは、自分で壊していい。
他人と育てたものは、殺せない。
言葉は決して死なないのだから。
また生きていこう。
そして人生は続く。
2019/05/23