NARRATIVE

闘病日記と化した雑記です。

Darkside = Sanctuary

 

 

今日は私の親友の話をしようと思う。

 

そう、どうでもいい自分語りの始まりだ。

うんざりだろうけれど、よかったら読んでほしい。

 

 

https://youtu.be/oygNmMISdC0

 

 

私にはハリー・ポッターに出てくる「分霊箱(Horcrux)」のような存在たちがいる。

 

 

分霊箱/ホークラックスHorcruxは、フランス語の「dehors」(=英:outside、外)と、「crux」(英語:要点、ラテン語:責め苦)を由来とする造語である。したがって、魔術を用いた人物の重要な部分(=魂)を苦しみとともに外へ出す、という意味になる。日本語表記は分霊箱。魂を分割し、その断片を何らかの物に隠す魔法、またはその魂を隠した物。魂を隠す物は物質でも生物でもよく、形状や大きさを問わない。分霊箱に納められた魂の断片は、魂をこの世に繋ぎとめる役割を持ち、本来の肉体と肉体に宿る魂が破壊されても、他の魂の断片を納めた分霊箱が存在する限りその者が本当の意味で死んだ事にはならない。分割された魂が全て滅ぼされた状態で本体が肉体的な死を迎えると、魔法を講じた者は死滅する。

 

(Wikipediaより抜粋) 

 

名前を言ってはいけないあの人のように、生贄をささげてはいないけれど、要するに彼/彼女らは、私の魂を現世にとどめてくれているのだ。

 

 

今日、そんな分霊箱の1人と電話をした。

 

 

彼女との出会いは大学2年生のころだった。

 

少しだけ話をすると、その頃の私は、

自分のすべてを投げうって、お芝居と、ろくでもない恋愛に情熱を注いでいた。

 

大学なんてまともに通えなくなっていて、ついには行かなくなった。もうこのままどうなってもいいと投げやりになっていた。その人と自分が生きてさえいればよかった。日差しのあたらない部屋で、毎日毎日飽きずにいた。

そして大好きな仲間たちと自分たちのお芝居を作った。

友達も家族も泣きながら電話をかけてきた。けれど気にも留めなかった。

それだけで心底幸せだった。

 

その恋愛は21歳の時にだめになってしまったけれど、結果的にまだ生きているのは、演劇と恋愛を通して、人に対する基本的信頼を獲得したからだ。一般的に見て最底辺にいたけれど、あの頃の私の世界には愛しかなかった。

10代のころは、今まさに存在してことを想像さえできなかったんだから。20歳を越えられて、今も生きているのは、そのおかげだと思う。

 

ただ、生きる希望とともに絶望を与えられ続けたあの日々はあまりにも壮絶で、その頃の記憶は今もよく思い出せない。

 

さて、そんな地獄を巡っている最中の話だ。

 

彼女と私は同じ学科だった。

どうやって優秀な彼女と登校拒否の私が知り合ったのか。

はっきりとは覚えていない。記憶が曖昧なのだ。

 

やさぐれていつも喫煙所にいる私を、彼女は気にかけていてくれた。

 

ある日、自分も同じく泥沼な恋愛にはまっている、と打ち明けてくれた。

タバコを吸いながら、たくさんのくだらないけれど大切な話をした。

家族の話、好きな映画の話、世界の捉え方。

お互い似たような傷を抱えていて、感覚が似ていたのだと思う。

 

お互いに生きていく場面でアルコールに頼ってはいたけれど、不思議と酒を飲みかわしたことはない。真に心を許せる人との会話に、酒で誤魔化す野暮はいらない。

 

話をしていて、こんなに言葉の通じる人がいるのかと感動した。

まるで私の世界に必要な言葉を切り抜いて、大切に抱えて生きてくれたような。

物事に対する考え方、姿勢が静かで繊細だった。

感性が似ているという言葉にするとしっくりくる。

 

大学にいてそんなに楽しいと思ったことはなかったけれど、

彼女と過ごした記憶はなんだかグザヴィエ・ドランの映画のように鮮やかだ。

 

よく彼女と話していたことがある。

 

 

私は、自分のなかにDarksideがあるのを知っているんだ。

それは死神みたいにいつも私の右側に控えている。

普通の人が「やってしまった」とやり過ごせる失敗を責め立てる。

「またやったな、お前はいつもそうだ、あの時もそう」

そうやって、とんでもない求心力で引きずり込もうとする。

けれど、こうやって話していると思うんだ。

きっとそれは、私にとってSanctuaryみたいなものなんだよ。

だから、実はとても大切にしているんだ。

そういう場所を打ち明けられる人ができてうれしいよ。

 

 

彼女はいつもため息と一緒に深くうなずいて、なんだか泣きそうな眼をしていた。

 

 

 

 

結局復学できないまま、卒業論文発表の時期になった。

もはや何にも興味はなかったけれど、恩師に誘われ仕方なく見に行った。

私を見つけた彼女は大きく叫んで駆け寄って、力の限り抱きしめてくれた。

生きてるか、生きてるよ、そっちは生きてるか。

 

SNSを消して、Lineもろくに返さなくなった私に彼女は言った。

 

 

これからも思い出すよ。当たり前に。

私にとってあなたが特別だから、当たり前なんだよ。

誰に対してもそうじゃない。

 

あんなに心を込めてありがとうと伝えたことはない。

言葉を大切に扱うようになった。

それ自体が人を大切にして生きることだと教わった。

私はあらかじめ好きになれるものの総量が決まって生まれているのだと思う。

だから、こうやって心を許せる人に出会えたら、きちんとありがとうと言葉にしよう、と決めた。

 

 

 

一足先に卒業した彼女と江の島で再会した。

脱泥沼してからというもの、ふらふらと恋愛したりしなかったりしていた私とは違い、彼女は永遠を信じられる存在を見いだしていた。よかったね、と、近状をひとしきり語り合った後、ふと、海を見ていた。その時彼女が語った言葉を今でも覚えている。

 

 

私はずっと、目の前に並べられた真っ青なパズルを一人で解いていたのね。

なにもわからなくて泣いていたら、隣にその人がいたんだ。

彼が一緒に悩んでくれるようになった。

相変わらずなにも解けないけれど、私は今安心してパズルに向き合えるよ。

疑わないで委ねられる受容があるよ。

それがとてもうれしくてありがたいんだよ。

 

 

それを聞いて、なぜだか知らないけれど涙が出た。

羨ましかったのかもしれない。

もちろんそれもあるけれど、私は明確に、大切な人の心からの幸せが嬉しかった。

 

悩み苦しんだ過去は決してなくなることはない。

けれど呪いはいつかとけて、愛に変わるのかもしれない。

 

私はその時確信した。

人生には揺り戻しが起こりうるのだと。

どんなにたゆんでも、絡まっても、支える人の存在で、必ず人間は立ち直れる。

 

だから、私はそういう人間になろうと思った。

どんなアプローチでも構わないから。

他人のために生きられるように。

もう間違えない、自棄を起こさない。

いつか時がきた時、きちんと誰かに向き合うことができる誠実な自分を用意しよう。

そうして、復学を決意した。

 

きっとそれが私の呪いを解くカギだと思えた。

 

美しい希望が目の前で呼吸をしていた。

 

 

 

 

 

今日、そんな分霊箱と電話をした。

 

 

回線の繋がった先に、確かに希望が息づいているのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして人生は続く。

 

 

 

2020/04/08 御法川わちこ