観念について④花
なんだこれは。
触手?
なんかいい匂いがする。
私はそれを1歩引いてよく見てみる。
あ、「花」だ。
目の前に「花」がある。
触手だと思ったものは、「雌しべ」だ。
「花びら」の調和。
『うつくしい』
気がする。
私はそれを1歩引いてよく見てみる。
「花」の全体像が見える。
おそらく、「百合」だ。
純白といっていいのだろう。
俯くような姿勢が奥ゆかしい。
私はそれを1歩引いてよく見てみる。
何本も咲いている。
これは「花壇」だ。
花々は柔らかそうに揺れている。
私はそれを1歩引いてよく見てみる。
ここは、「花畑」だったのか。
一面の「百合」たち。
ここまでくると無秩序に感じてしまう。
美しいけれど。
私はそれを1歩引いてよく見てみる。
・
・
・
気がつくと私は浮遊している。
1歩引きすぎた。
しかし、とめられない。
今眼前に広がるこの光景は、「地球」だ。
例えようのないくらいの美しい球体。
息は苦しい。なんとなく背中が熱い。
しかし、とめられないのだ。
『うつくしい』
私はそれを1歩引いてよく見てみる。
・
・
・
①
私の意識は最早消え去りそうだ。
背中が熱いなんてもんじゃない。
もう燃えているのだろう。
しかし、とめられないのだ。
眼前に広がるこの壮大な故郷を。
それを包む真っ黒い空間を。
私はそれを1歩引いてよく見てみる。
ああ、これは「宇宙」だ。
「星々」の何たる輝き。
何たる調和。
『うつくしい』
全身が焦げつく。
薄れゆく意識の中で思った。
私は思い出した。
最初もそう感じたのだ。
あの「花」を『うつくしい』と。
私は本当にこれが見たかったのだろうか。
これは同じ感情であったはずなのに。
どうして満足できなかったのか。
もう戻れないあの「地球」を思った。
家族を思った。
「宇宙」を見た私を褒めてくれるだろうか。
抱きしめてくれるだろうか。
強烈な孤独を束ねたようだ。寂しい。
だがもうこの光景を知ってしまった。
知らない人などと、どう会話したらよいのだ。
私はそれを1歩引いてよく見てみる。
しかし、これはなんなのだろう。
この熱さはなんなのだろう。
私はふと、考えた。
そして、振り返った。
ああ、これは。
「たいよ」
私の意識は焼け落ちた。
②
私は「宇宙」を見た。
「星々」を見た。
その仕組みを観測した。
しかし、熱い。熱すぎる!
振り返るとそこには「太陽」があるはずだ。
確認はできない。
それをひとたび見てしまえば、目が焼けてしまう。
おそらく、ここが限界だ。
私は1歩足を踏み出す。
故郷へ帰るために。
同じ手順で、1歩、また1歩。
歩みを進める。
あの「花」の『うつくしさ』を。
正確に捉えるために。
▽ ▽ ▽ ▽
さて。
①と②は何が違ったのだろうか。
そして人生は続く。
2019/07/05 御法川わちこ